日進月歩 「えっ?」 「だから、少しはマシになったと言ったの」 「本当!? ノゾミちゃんにそう言ってもらえるなんて嬉しいよ!」 「ま、マシになっただけよ! もっと上達してもらわないと困るわ!」 「うん、うん♪」 真っ赤になったノゾミちゃんがすごい勢いで煮物を口に運んでいく。 うわぁ、今のニンジン切れてなかったよ……。 ばくばく食べているけど、それでもノゾミちゃんの食べ方はとても上品。お箸の運びも様になってる。 「それにしても、よくそんなに食べられるね」 「あなたが考えなしに作るからじゃない!」 うう、失言… ノゾミちゃんと暮らすようになって、わたしの食生活は多少改善した。 なあにそれは、そんなものを食べているの? 食事が偏ってるわ、てれびが「いけない」と言っていたじゃない。桂、あなた少し太った? 1番最後の言葉が、とっても堪えた。ふっくらしたね、とかもう少し言い方があるんじゃないのかなぁ。でも、おかげで食事をきちんと考えるようになったし、お凛さんにお料理を教えてもらうようになって、皮むきなんかは見られるぐらいには出来るようになった。一緒に付き合ってくれてる陽子ちゃんも、「人間変わるもんだねぇ」って……これは褒めてないかも。 まだ家庭科の範疇を超えられていないんだけど、前よりはずっと良くなったと思う。炊き込みご飯と簡単な野菜の煮物はなんとかノゾミちゃんの「合格」をもらえたけど、道は遠い。ノゾミちゃんが好きだっていう料理を覚えたいんだけど、お燐酸に聞いたところ今の私にはまだ無理なんだそう。洋食にも興味を示し始めたノゾミちゃんの希望に応えるためにも、もっと頑張らないと! 「……い、桂!」 「はいぃっ!?」 「何をボーッとしてるの? あなた全然食べてないじゃない」 「あ、うん。食べる食べるっ」 そうだよね。せっかく上手に出来たんだし、ちゃんと味わっとこう。いつも成功するとは限らないんだし、この味を覚えておかないと……。 「ねえ桂、新聞に「れしぴ」が載っていたのだけど、これが食べてみたいわ」 「どれどれ……野菜スープかぁ」 子供でも簡単レシピ、ということで具材もソーセージとか、切って入れるだけみたい。その切って入れるだけでも失敗する事が多々あるわけだけど……まあいいか。挑戦する気持ちは尊いもの。 「このソーセージ、というのはいつもお弁当に入れているものじゃないの?」 「そうだね。これは魚肉ソーセージみたいだけど」 「あら、魚があんな形になるわけがないじゃない」 「私もそう思うんだけど、でもお店に行けば売ってるし……」 「よくそんな訳のわからないものを食べられるわね」 そう言われると返す言葉が見つからない。かといって工場見学に行く訳にもいかないし。そもそも見学ってどこでも出来るものなんだろうか? 社会科見学でビールの工場に行ったことがあったっけ……他には何があるだろう。 ふわふわと意識を漂わせながら、煮崩れた小さなジャガイモを飲みこむ。 ああでも、本当に上手に出来た。とてもいい香りがするし、まるで夢みたい。 「……い、桂!」 「うわあぁっ!?」 「こんなところで居眠りしてたら風邪を引くじゃない!」 「あ、うん。ごめんごめんっ」 ……あれ? なんだか既視感、というかこんなやり取りをさっきしたような……。まさかまさか、本当にあの上手に出来た煮物は夢? 「あ、でもいい匂いがする」 「あなたがあんまり下手だからどれだけ難しいかと思ったけど、そうでもないのね」 ……あれ? ノゾミちゃんお手製の煮物はとっても美味しかった。 栴檀は双葉より芳し、なのかなあ。 (05.09.04.初出/07.04.25.加筆修正) |