士道演戯リリース記念ホラー





▼ここまでのあらすじ
色んな屯所で回された事前登録くじから排出されてはキャッチアンドリリースされたR相馬わんは、事前登録くじから排出され雪村先輩に一目会えた喜びを胸に再び排出待機列へ並ぶ日々が続いていた。ところが、とうとう本日11/1の14時に士道演戯が提供開始されることとなり数多の屯所でそれぞれの雪村先輩が最後のガチャに挑む中、R相馬わんは……

※相馬わん…グッズ類に散見される気がする、二頭身ほどの子どもサイズで犬耳しっぽの生えた相馬君。無数にいる。雪村先輩が好き。
※俺…野村君。月末発売の遊戯録3で念願の初スチル。やったぜ。DMMにも実装よろしくお願いします。





 雪村先輩の姿は、もうすっかり見えなくなっていた。何匹もの――いや、何十匹もの相馬が足元から頭のてっぺんまで、すべてを覆い尽くしていた。それでもなお、未だ屯所には無数の相馬が侵入し続けている。玄関で争う幹部の声を聞く限り、この部屋までその波が押し寄せるのは時間の問題だ。
 俺は必死に、けれど慎重に、一匹一匹、雪村先輩から相馬を引き剥がしては床下に――雪村先輩の部屋の中へと投げ捨てる。ここは、先輩の部屋の天井裏だ。相馬たちは先輩の匂いを追いかけてこの部屋へ殺到していた。俺が駆けつけたときには、もう足の踏み場もなく相馬たちが蠢いていたのだ。

――バカ野郎! そいつ一匹の侵入を許せば、どれだけの相馬が雪村目指して屯所へ押しかけるか分かってんのか!!

 いつかに言われた言葉が今さら耳の中にうわんうわんと響いていた。せめて一匹だけでもと、相馬を匿おうとした俺を土方副長が叱ったのだ。それで俺は相馬を屯所の外へ逃がし、けれど後日また塀を乗り越えて入ろうとしていた一匹の相馬を見つけて……。
 雪村先輩はぐったりしたまま動かない。息はあるようだが、失神していた。群がる相馬たちはそんな雪村先輩の顔を心配そうに見つめながら、小さな手でぎゅっと先輩の着物を握り締めている。健気な様子は平時なら痛ましく映ったのだろう。けれど先輩が気絶しているのは何十匹もの相馬に群がられたからだ。
 屯所へ雪崩のように殺到した相馬たちは、侵入を阻もうとする幹部の皆さんや隊士たちを数で圧倒していた。二匹放り出している間に一匹が入り込む。三匹を止めている間にその足元を二匹がすり抜ける。押し寄せた相馬たちの数は何百いたのか、辺りの道は地面が見えなくなっている有様だった。一体どこからこれほど集まってしまったのか。屯所が面していた道の右も左も、どこからも相馬たちが押し寄せ埋め尽くしていた。
 相馬たちは雪村先輩の匂いを頼りに部屋を見つけ出すと、嬉々として彼女へ駆け寄ったのだろう。足元にわらわらと群がる無数の相馬たちから逃れる場所はなく、先輩は慌てて押し入れの上段へと逃げ込んだ。相馬は子どもほどの背丈だから、少しでも高い場所へ逃げようというのは至極まっとうな判断だ。ただし、その数がまともだったなら、の話だが。
 屯所の中へ侵入し始めた相馬たちに焦った幹部の誰かが俺の名前を叫び、雪村先輩を守れと言った。俺はその声を最後まで聞くことなく走って、走って――そうして、雪村先輩の部屋をぎっちりと埋め尽くした相馬の山に呆然と足を止めることになった。
 床を埋めたのではない。文字通り、相馬たちは先輩の部屋で山のように積み重なり合っていたのだ。相馬の上にまた別の相馬が乗っかり、その相馬を足場にしてまた別の一匹がよじ登り……そうして何匹もの相馬が層になり、相馬たちは先輩の部屋の一点を目指して蠢いていた。
 既に襖はなくなっていた。押し寄せる圧力でとっくに外れ、無数の相馬たちの下にあるのだろう。押し入れであったそこには、押し寄せた相馬たちがひときわたくさん、まるでそこだけコブが出来たように盛り上がっていた。それを見た瞬間、俺には一つ、確かな確信があった。
 相馬の山をよじ登り、その相馬のかたまりから、一匹一匹相馬を引き剥がしていく。後ろへ放り投げた相馬はきっとまたこちらへ向かってくるのだろう。足元の相馬たちもそうだ。気にしている場合ではない。俺は無心で相馬たちのかたまりから相馬を掴み、放り投げ、また掴み、放り投げる。
 そうして十数匹の相馬を投げ飛ばしたとき、俺はようやく相馬たちの隙間に桜色の着物を見つけたのだ。相馬たちが群がり、埋め尽くしたかたまりの中心には、ぐったりと気絶した雪村先輩が埋まっていた。
 押し入れの上の板を押し開けた俺は、しがみ付く相馬ごと、力任せに雪村先輩を天井裏へと引き上げた。一緒についてきた相馬たちは無視して押し入れと天井の板を元に戻し、目に付いた相馬を二、三匹殴り、気絶させてその上に寝かせて重しにする。
 そうしてまだ何匹も相馬に群がられたままの先輩を部屋の中央へと引きずっていき、先輩の部屋の天井にあたる板を外して、一匹ずつ相馬を剥がしては目下の室内へ投げ落としていった。


 雪村先輩にしがみつく相馬は、あと五匹にまで減っていた。足元の室内では無数の相馬たちがじっとこちらを見上げてゆらゆらと手を伸ばして蠢いている。俺が引きはがして放り投げ落とした相馬が相馬たちの上へ落ちても、それを気にした様子もなく相馬たちは一心に天井を――そこにいるはずの雪村先輩を見上げている。
 今、屯所の中はどうなっているのだろう。足元の相馬たちが減った様子はない。もしこのまま際限なく相馬が増え続ければ、相馬たちの山はこの天井まで届いてしまうのではないだろうか。そうなる前にすべての相馬を下へ落として、先輩を連れて天井裏からどこかへ逃げなければ。
 しかし、逃げるといっても、どこへ?
 押し寄せる不安から目をそらすように、俺はまた一匹相馬を引きはがした。雪村先輩の着物を押さえ、着物を掴む相馬の腕を掴んでぐいと引く。そのとき、不意にその相馬が俺を見た。先輩に向けるのとは違う、無感情な目が俺を見ている。
「雪村先輩」
 相馬たちの声を聞いたのは、これが初めてだった。
「雪村先輩」
「雪村先輩」
 気付けば、まだ先輩にしがみついたままの四匹の相馬も俺を見ていた。顔だけをぐるりと回し、何を考えているのか分からない顔で俺を見、そして「雪村先輩」と呟きだした。
「雪村先輩」
「雪村先輩」
「雪村先輩」
 声は足元からも聞こえてきていた。恐る恐る室内へ視線を向けた俺は、即座に見たことを後悔した。
 蠢く無数の相馬たち全員が、雪村先輩ではなく俺を見ていた。先輩を求める切なげな眼差しではない。相馬たちから雪村先輩を奪おうとしている俺を見据えて、相馬たちは「雪村先輩」「雪村先輩」と口々に繰り返す。呟きだった声は次第に大きくなり、やがてすべての相馬が大声で叫んでいた。
「雪村先輩!」
「雪村先輩!」
「雪村先輩!」
「雪村先輩!」
 ざわざわと蠢きさざめく相馬の山は、一つのうねりとなってこの天井裏を目指していた。相馬の上に相馬がよじ登り、その相馬の上に相馬が足をかけ、必死に手を伸ばしている。
 そうして、天井裏に残った五匹の相馬たちもまた、大きな声で雪村先輩の名前を呼びながら、こちらへ手を伸ばしていた。
 雪村先輩ではない。
 相馬たちは、五匹全員が今、俺にしがみついていた。天井裏は立ち上がれるほどの高さがない。咄嗟に身を固くすることしか出来なかった俺を、五匹の相馬たちが信じられないほどの力でぐいぐいと押している。すぐに気付いた。相馬たちは、俺をこの天井裏から落とすつもりなのだ。落ちたところで下には無数の相馬がいるから怪我はしないのだろうが、だからといって無事で済むのかどうかは分からない。俺がここから落ちてしまえば、相馬たちはもう二度と俺が天井裏へ上がることを許しはしないだろう。相馬たちは俺が自分たちの敵だと知っている。大好きな雪村先輩を奪う奴だと、気付いているのだ。
「雪村先輩!」
「やめろ……」
「雪村先輩!」
「やめろ!!」
 抵抗にどれだけ意味があったのだろう。ぽっかりと口を開けた室内へ続く天井裏の穴へと押しやられながら、俺は必死で相馬を引きはがそうともがき、叫ぶ。
「俺なんか……俺なんか、事前登録くじに実装されてすらいないんだぞ!!」
 士道演戯が始まったところで俺は出番があるかどうかすら定かでない。雪村先輩に逢うことが出来るのかどうかさえ、分からない。
 思わず漏れた本音に歯噛みした瞬間、五匹の相馬たちは俺を見たまま微笑んだ。
 ふっと身体が軽くなる。
 落ちた、と認識した俺は、いやにゆっくりと流れていく時間の中で、天井裏の穴から同じ微笑みで見下ろす相馬たちの真意に気付く。
 そうだ。ここにいる相馬たちはキープされなかった相馬たちだけれど。
 それでも、雪村先輩と同じ屯所にいつか辿り着けるのだ。士道演戯の中に、彼らは実装されているのだから。
「雪村先輩!!」
「雪村先輩!!」
「雪村先輩!!」
「雪村先輩!!」
「雪村先輩!!」
 無数の相馬たちの大合唱に飲み込まれながら、俺の意識は事前登録くじの底へと沈んでいった。





まだ士道演戯に期待していた頃の産物。リリース当日に公開したがメンテ祭りで当日ほぼ稼働せず…
事前登録くじでR、SR、SSRが排出され相馬くんはRとSRしかなくキープできるのは1枚きり
よって数多のR相馬くんがキャッチアンドリリースされまくったためにこの話が生まれたのであった
相馬わんはミニキャラに犬耳尻尾がついたものとお考えください
(16.11.01.)