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・秘ED後の桂さん×楓ちゃん (幕末竜馬伝/雑記ログ)





秘ED後の桂さん×楓ちゃん (幕末竜馬伝/雑記ログ)




「よいしょっと」

 布団に横たわったまま、ウトウトとまどろんでいた楓は場に不似合いな声につられて目を開いた。瞬きを繰り返し、辺りを見回せばどこぞの宿だと知れる。
 ああ、そうだった、桂さんに会いに来たんだった、と思い返した記憶はそのまま寸前の出来事まで至り、楓は絶句して顔を覆った。
 偽りの生活を終え、ただの町娘に戻って幾ばくか。会いたいと願っていた彼と再会出来たのはいい。想いを通い合わせられたのも、本当に嬉しい。けれど、それにしたって、こんなにもすぐに!
 嬉しさと恥ずかしさ、戸惑いと喜び。胸の中をぐるぐると渦巻く感情はどれも正直な気持ちだ。それでも、会って元気な姿を見られたのが何より喜ばしい。おそらくそれが、一番大切なことだ。

「どうしたんです? 百面相なんかして」
「きゃっ!? か、桂さん!」
「はい、なんですか?」

 にこにこと笑みを浮かべた桂がいつの間にか枕元にいて、楓を覗き込んでいた。陽はとっくに落ち、室内は隅に置かれた行灯の光が照らすのみだ。その薄暗い中でも、桂がほんのりと頬を染めているのが分かる。桂の手が頬に触れて、その冷たさに思わずため息が漏れた。きっと、上気しているのは楓も同じなのだろう。

「機嫌、よさそうですね。桂さん」
「ふふ。分かります?」

 浪人たちを前にしているときとは全く違う、邪気のない子どものような笑みに楓も口元を綻ばせた。頬に触れた手がふにふにと頬をつつく動きに変わり、やめてと笑って顔を振れば桂も同じく笑い返す。つつくのをやめた手が頬を包み、口付けが降りてきてもそれは甘く優しい戯れに違いなかった。
 かすめただけの唇が、「ねえ」と楓を呼ぶ。

「いいことをしてあげましょうか」
「いいこと、ですか?」
「ええ、いいことです」

 こうなるに至った経緯を思うとどうも腰が引けるのだが、桂は半ば楓を覆うようにしている。逃げるのは無理だろう。どうしよう、と逡巡するより早く、桂の手が楓の肩を押した。
 ――上から押さえつけるのではなく、引き上げる方向に。

「え? あ、あの」
「いいからいいから。あ、だめだよ起き上がったら。はい、そのまま寝て」
「え、ええ?」

 促されるがまま、言われるがままに従った結果、はて、と楓は不思議そうに天井を見上げていた。またしても覗き込んでくる桂の顔も、天井も、先ほどよりは近くなっている。ぽかんと見上げてくる楓の上で、桂が声を上げて笑った。

「なに、楓ちゃん。僕の膝はそんなに寝心地悪いですか?」
「そ、そんなことないけど! ……ひ、ひざまくらなんて」
「いっつも僕がしてもらってたから、お返しです。今日だけ特別ですよ」

 ね、と笑った桂の頬はまだほんのりと赤くなっていて、驚きも戸惑いも、どうでもよくなってしまった。じわじわと込み上げる幸せの予感に、楓は目を細めて笑う。
 置いていくつもりはないと桂は言ってくれた。楓自身もまた離れるのは嫌だと思っている。そうなれば、きっと先行く未来の道は一つなのだろう。
 変わっていく日の本の中、自分たちだけは変わらず続いていけたらと、そう願わずにはいられなかった。



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(10.03.23.)